相続税申告の際には亡くなったかたの預金口座のお金の流れをチェックします。贈与がないか、贈与があったなら申告しているか、誰に贈与しているのか、名義預金はないか。
相続税の税務調査においてはこの名義預金の指摘が近年とても多い状況です。つまり事前に確認して対応できることがあるならやっておくに越したことはないというのが税務調査を見越した相続税申告の現場の対応となります。
そんななかで、贈与だけど申告してませんでした(もちろん納税も)ということが発覚することがあります。そんな時の対応について整理しておきましょう。
贈与税申告が漏れていた時の対応
亡くなった方の預金口座のお金の流れを見ていると贈与のようなお金の動きを発見したとします。
大体110万円とか200万円、300万円とまとまった金額になっていることがあり、通帳そのものに亡くなった方が「〇〇へ」というメモを添えていることも見かけます。
こうなると贈与だろうなと予測がつけやすいわけで相続人〇〇さんに伺ってみると贈与でしたと。
相続遺贈で財産を取得した相続人等はその亡くなった人から贈与を受けていた場合には相続税計算上足し戻して計算するという取り扱いがあります。生前贈与加算といいます。
この生前贈与加算は最近改正があってこれまでは亡くなる前3年間だったものが順次延長されて7年間になる予定です。
そのため、生前贈与加算の対象となる贈与があるかどうかは相続税計算上も税金計算に大きな影響を及ぼします。
贈与かどうかを相続人〇〇さんに確認したところ贈与でしたが実は贈与税申告をしていませんでした、という告白があることもときどきあり、税理士として対応が必要な場面となります。
明らかに贈与という場合には時効にかかっていないかどうかを確認して期限後申告をすることで対応です。
相続人の名前での贈与税申告ですが本来の申告期限(贈与があった年の翌年3月15日まで)に申告できていない場合には、期限のあとの申告という意味で期限後申告と呼びます。
期限後申告をして納税額があれば納税です。この場合は期限後申告の贈与税申告書の提出日が贈与税の納付期限ですので注意してください。
贈与が明らかな時には相続税の申告期限までに贈与税の期限後申告をして納税をする。
納税した贈与税の本税(延滞税等をのぞくという意味です)は贈与税額控除の対象ですので相続税の税金計算上控除することが可能です。
相続人〇〇が贈与があったことを知らないという場合には贈与が成立していない可能性が非常に高いので名義預金として相続財産に加算するか検討することになります。
贈与に関する勘違い
贈与税申告をしていたら贈与が成立している、もしくは贈与税申告をしてないから贈与が成立してないという贈与に関する勘違いが見受けられます。
これは相続税の税務調査においても調査官からまれに指摘があるのですが、そもそも贈与税の申告の有無と贈与契約の成立は別の問題です。
贈与契約は財産を贈与する人の意思と、財産を贈与される人の意思が合致して初めて契約が成立するとされています。
前段で「相続人〇〇は贈与があったことを知らなかった場合」について触れましたが、贈与があったことを知らない=意思が合致していないと言えます。
なので贈与契約が成立していないかも、という可能性を検討することになるのです。
贈与税の申告は贈与契約成立の要件にはなっていません。贈与があったとしても申告していない人がいるというのはそういうことです。
贈与があったにもかかわらず申告をしてないのは契約行為が成立しているかどうかの問題ではなく贈与があったけれど申告をしていませんでしたという道義上の問題で、申告義務を果たしていないという問題とも言えます。
そのため贈与税の申告があったとしても贈与された人が知らなければ贈与契約は成立してないともいえるわけです。
贈与税申告をしているのであれば贈与契約は成立しているように見えますがそもそも相続人〇〇が贈与を知らず、贈与者がいわば勝手に贈与税申告をしている可能性だってあるわけです。
これも道義上の問題ではあります。本人に知らせず勝手に贈与税申告をしているのですから。
まとめ
以上のように相続税の現場では贈与があったけど贈与税申告をしていないという状態がときどき出現します。
贈与契約の成立があったかどうかを丁寧に確認して取るべき対応を速やかにとりましょう。