相続人が存命だけれど連絡が取れない、というケースはまれにあります。所在もわかっていて電話もするけれど応答がない。
それでも相続税申告は待ってくれませんのでそういう場合の対応としてどういうことができるか、整理しておきます。
相続人の確定とコンタクト
相続人の確定は戸籍をたどっていくことからはじまります。
亡くなった方の生まれてから亡くなるまでの戸籍をまずは収集することで、親族関係を紐解いていくわけです。
結婚すると戸籍が編纂されて新しく戸籍ができます。子が生まれればその戸籍に加わりますし、子が結婚すると戸籍から抜けて新しく戸籍を作ります。
こうして、本人も含めた家族史が読み取れるのが戸籍なわけです。
戸籍は基本的にその本籍地がある市区町村でしか取得できません。京都に住んでいる東京が本籍地のかたは東京のその本籍地がある市区町村で取得します。
遠方の場合は郵送でのやり取りも可能ですが本籍地が複数回移動している場合にはつながりを確認しつつ追っていくことになりますので時間もかなりかかります。
こうして戸籍の収集から相続人を確定し、縁遠いひと、連絡が取れない人が判明するケースもありそういう時には対応が必要です。
ご本人は相続が発生していることを知らない可能性もあります。
こういった場合にはまずコンタクトを取ることになりますが、住所がわかなければ戸籍の附票から住所の変遷を確認できます。
コンタクトを取ろうとしても全く音沙汰がない、どうすべきか、となったら次のステップに進みます。
在者財産管理人という制度
こういった相続人はいるけど行方不明になっている、コンタクトが取れない、ということも想定されている制度があります。
不在者財産管理人という制度です。
これは親族から相続人が不在なので相続人に代わる財産管理人を選任してくださいという申し出を家庭裁判所に提出することで手続きが進みます。
こちらで勝手に不在者財産管理人を選任することはできません。
家庭裁判所は権限でもってそう相続人が本当に不在者なのか、状況を含めて確認するとされており改めて不在であることが確認できると不在者財産管理人が選任されるそうです。
申し出から大体3か月から6か月ぐらいだといわれています。
相続税の申告と納税は相続開始を知った日(多くが亡くなった日)から10カ月以内ですから、相続人が不在者になりそうという場合には早めに手続きを検討したほうがよいです。
こうして不在者財産管理人が選任されると相続財産の遺産分割協議書案を作成して家庭裁判所のチェックを受けて遺産分割をすることが可能です。
不在者財産管理人は相続税の納税をその不在者財産からまかないます。
ひょっこりと相続人が出てきた場合にはその相続人に引き継がれる、ということだそうです。
税理士として不在者財産管理人がいる相続税申告の担当をしたことがありますが、実際に不在者になっている相続人が出てきたケースは申告までの間は見たことがなく、申告が終わればあとはこちらの仕事がない状態ですので顛末は不明です。
不在者になった相続人は相続開始を知らないということも往々にしてあるため、不在者財産管理人が選任された日が相続税申告期限の開始日となるようです。
この場合でも他の相続人の相続税申告期限には影響を及ぼさないため、遺言がなく遺産分割協議の場合にはいずれにしても、不在者ではない相続人は申告期限・納付期限に変わりはないといえます。
実務的には遺産分割協議が申告期限までに整わないため、未分割の内容でいったん申告納税までを済ませる(納税は相続人の誰かが立て替え)ケースがあります。
相続人が不在者という事情はあるにしても相続税申告と納税の期限は事情があっても待ってはくれないので、未分割という選択肢しか残されていないとも言えますね。
こういった事態が想定されるのであれば早めに動き出して申告期限に間に合うように遺産の整理、目録の作成、不在者財産管理人申し立てまではなるべく早く行うのが有効でしょう。
まとめ
相続人が行方不明、生きてはいるみたい、という状況はそうそうないですがさまざまな事情があるのもまた家庭の話を取り扱う相続ならではかなと。
もしそういう人が相続人にいるなら早めに手当てしておくのがおすすめです。繰り返しますが相続税申告の期限と納付は待ってはくれませんので。