特に不動産を活用する相続対策の場合、借入を伴うことがあります。借入を伴う場合には相続後のことも視野に入れて検討しましょう。
借入も相続する
不動産を購入して相続税対策をする際には借入を伴うことが多いです。
例えば自己所有の土地を持っていて建物を建てる際には自己資金か借入かで行うことになります。
この場合、土地に担保設定がされていない場合には建物の建築費用を土地を担保に入れて借り入れをすることが多いです。
自己資金も加えてということになるケースもありますが、土地の権利関係がきれいな状態だと多くの場合は不動産業者や金融機関から借入をすることを勧められます。
不動産業者やちょっとでも高く建物を建築してほしいと思うものですし、金融機関も土地が担保設定できるのであれば貸しやすいと考える傾向があります。
もちろん返済計画などは詳細に詰めますが、担保設定ができる融資と担保がない融資では貸しやすさも借りやすさも違います。
また、相続税対策でという名目があると借入を勧める税理士がいることも事実です。
もちろんご本人が希望しているのであればよいのですが、相続税の計算上、借入は債務控除できますので、相続税が大きく下がる効果が期待できます。
そのため、相続税対策で借入で不動産を建てましょうというひとが周りにたくさんいると、そういう方向性になりがちです。
もちろん代々の地主で土地は引き継いでいきたいので相続税はなるべく先送りしたい、賃貸収入目的がメインで借入による相続税の減少は副次的なもの、ご本人も理解して納得している場合はそういう対策を進めてもらうこともあります。
それでも、相続後のことも考えておいてもらうように必ずお伝えしています。
借入がイヤな相続人は多い
相続の場合はプラスの財産もマイナスの財産も、亡くなった方の名義のモノであれば引き継ぐことになります。
借入はいやだから相続人は誰も引き継がない、ということはできません。誰かが、もしくは複数人で引き継ぐことも場合によってはあります。
意外と、というか誰でもかもしれませんが相続で借金を相続することは嫌だと感じるかたは多いものです。
たとえそれが相続税を減らすためであっても、減った相続税と借金の金額を見比べたときに借金のほうが圧倒的に多い、というのは現実としてよく見かけるのです。
そう考えると、相続税が払えるのであれば無理して相続税対策をしなくても、借入をしなくてもいいのでは、というのは考え方としてはよくわかります。
借入をしてしまうとその不動産を売るか返済が終わるまで相続税対策が終わらないことを意味します。
本当にそれでいいのか。よく検討してもらったほうがよいでしょう。
特に相続人の立場になる方はよく「親の好きにしてくれたらいい、穏やかに過ごしてくれたらいい」と言うものですが、いざふたを開けてみると相続税対策で下手すると赤字になるような賃貸不動産を借金付きで相続する羽目になった、ということも。
相続税対策をどこまでやるか、相続人の方も交えて線引きしておくほうがよいでしょう。
贈与だけで済ませるのか地主なので次にも引き継いでほしいとなるのか、いろんな状況がありいろんな対応があります。絶対これが正解というものではありませんので、よくご家族と相談してもらうほうが納得して進めやすいです。
対策の目的が節税だけだとキケン
あともう一つ注意点としてお伝えしておきたいことが、相続税対策で節税というワードがでてくるとリスクが高くなります。
何のリスクかというと、税務調査でひっくり返されるリスクです。
2022年の春に最高裁判決で不動産と借入金を使った相続税対策の判決があり、相節税対策だけでこういった不動産・借入金の仕組みを使うことのリスクが高くなりました。
裁判のケースはかなり高額でしたが、税務署も裁判所も不動産を買った目的は何ですかと聞いて「節税のためです」という答えがあるとそれはダメだよね、となる傾向が強いです。
課税の公平性に欠けるとかいろいろな問題点があるのですが、シンプルに相続税対策で節税のためだけ、という状況になっていると後で税務調査のときに痛い目にあう可能性が高まる、ということは知っておいて損はないです。
すべての不動産と借入金を使った相続税対策がそうなるというわけではないのですが、相手の機嫌を損ねると怖いことになりかねません。
そういう可能性がある、ということは頭の片隅に置いておきましょう。
まとめ
親の借金を相続するわけですから子からするとそこまでしないといけなかったのか?というのは実際問題としてよく聞かれることではあります。
相続税が支払える、それでも不動産は残る、何を目的に相続税対策をするかは着手する前にいま一度考えてもらったほうがよいです。一度始めると後戻りできませんので。