コロナ禍に入ってからここまで、コミケなどの対面での販売に制限がかかり、オンラインプラットフォームでの電子書籍の地位が上がってきた、そんな印象です。
漫画家・同人作家のかたで法人成りするかどうか検討しているかたもいらっしゃるでしょう。
必ずしも法人化しないといけないというわけではないですが、法人成りすると事業運営としての難易度があがる部分があるのでその点を解説します。
売上の波・平均課税・役員報酬
同人作家のかただと特にですが、売上に波があることが多いです。作品を4カ月に一度、6ヵ月に一度出す場合には、作品をリリースしてから2か月ぐらいまでは売上が好調です。
ただその間にもどんどん売れ筋の作品がほかの作家からリリースされますので、徐々に売上が時間の経過とともに落ちてきます。
リリース月は300万円だった売上が、100万円、50万円と自然と落ちていくことになります。
そうすると、作品をリリースするごとに売上の山ができてそれが落ちていく谷間が形成されるわけです。
次の作品が想定通りに売れればよいですがそうじゃなくなると売上の谷間が続いてしまう可能性があります。
個人事業主であれば自分宛てに給与を支払えませんので自分一人で画業をしている場合には大きな問題が出にくいです。
法人成りしていると自分宛てに役員報酬を支払うわけですのでその原資は売上ですから、売上がさがると予定が狂います。
それまでに会社に資金がプールされていれば良いですがそうではないと支払を先送りすることになります。
また、役員報酬は年に一度、向こう一年分を決めておく必要があり期中で上げ下げできますが会社の経費にならない(税務上損金にならない)ことで法人税に影響が及びます。
売上の波があることで役員報酬を調整することができないことになりますので、その点の難しさがあります。
また個人事業主であれば平均課税を適用できると所得税は大きく減ることがあり、税金への影響が大きいです。
法人成りすると平均課税は使えなくなります(個人特有の特例)ので、平均課税が適用できるうちは法人成りしないというのも選択肢です。
社会保険料
仮に月100万円の役員報酬を設定して、京都府で35歳、扶養人数ゼロとしますと以下のようになります。
月額報酬100万円
健康保険料 49,441円(会社負担49,441円)
厚生年金保険料 59,475円(会社負担59,475円)
(所得税 107,645円)
役員報酬の手取りは783,439円 会社負担と合わせての社会保険料は217,832円となります。
仮に個人事業主で文芸美術国保に加入していて、国民年金の場合はどうかというと
健康保険料 24,800円(所得による上限等はなし)
国民年金保険料 16,520円
社会保険の合計は41,320円ですので法人成りして役員報酬を100万円に設定した場合とかなり金額が異なります。
年金の部分はもちろん増えれば増えるほど将来受給できる年金額が増えることになりますが、その点をどう考えるか。
また国民健康保険料は高かろうが安かろうが窓口負担はどちらも3割で給付内容としては変わりませんので、健康保険料は安い方がお得に感じるはずです。
こうしてみると手取りベースでも個人事業主の方が手残りが良いケースはあるので法人成りして役員報酬を取る場合には税金だけではなく社会保険料も考慮に入れた試算が必要となります。
まとめ
法人成りをしなくても個人事業主でも十分やれる状況ではあると思います。消費税の免税もインボイス登録に伴ってなくなりますし。
また仕事が順調でしっかり資産形成できている場合には目標金額を決めておいてそこに到達したら好きな仕事やりたいことをやる、というお客様もいらっしゃいます。
考え方次第ですが漫画家・同人作家の場合には法人成りして売上が上がるかというとあまり関係がない業種だとも考えられますのであくまで選択肢の一つとして検討してみましょう。