ご自身の相続について揉めないようにしたいというご要望があるときには遺言を検討します。
実際問題として財産を遺す立場で考えたときに遺言があったほうがよさそうだなという場面を考えてみましょう。
遺産分割協議にゆだねられるかどうか
遺言がある場合には基本的にそれに沿って遺産分けが行われます。
遺言に不備があって無効になってしまうケースもあるにはありますが、原則の最優先は個人の意思ですので、遺言がある場合には最優先です。
では遺言がない場合はどうするかというと、相続人で誰がどの財産を相続するかを話し合って決めることになります。
これを遺産分割協議というのですが、全員が納得して分割協議書にハンコを押すことになります。
つまり、誰か一人でも「私はこの遺産分割協議の内容に納得できない」と言って「実印を押すことはしない」と言われると分割協議は不成立です。
いつまでたっても財産を分けることができず、名義変更もできません。財産は塩漬けの状態になります。
こういった流れになりますので、遺言を準備するかどうかの判断として、遺産分割協議ができそうか、ゆだねられるか、というのがポイントになってきます。
相続税申告があるとかないとか、税額がでるとかでないとかはいったん横に置いておいて、まずはその点が一番大切です。
全員が納得できる分け方ができる、ということであれば遺言はなくてもよいでしょう。
ただ次に示すようなことがあるなら遺言を準備することを考えたほうがよいです。
家族の仲が(とても)悪い
親と子の仲が悪いケースもあれば子ども同士でそりが合わないこともあるでしょう。
そりが合わないぐらいのことはよくあるかもしれませんが遺産分割の場面ではそれが大きく影響することがあります。
特に相続人の配偶者などいわゆる相続人ではない、相続人の家族がしゃしゃり出てくることがあると非常に面倒です。
この配偶者それぞれがでてきてしまって収拾がつかなくなるケースを何度も見ていますが、そうなってしまうと分割協議どころではないです。
家族関係が遺産分割の成否に大きくかかってきますので、心配であれば遺言があったほうがよいでしょう。
遺言が有効なものであれば相続人の希望が遺産分割に影響することがなくなります。
遺言をせっかく準備したのに無効になってしまうことほど悲しいことはないので、そういうことがないように公正証書遺言がよいですが、法務局での自筆遺言の預り制度も様式については確認が入るそうなのでそれを利用するのもよいです。
生前に特定の子や親族に財産を渡した
例えば特定の子に生前に財産を多く渡したとか、医学部に進学したので学費を多く負担したとかそういう事情があるケースもあります。
こういった場合には相続のときにその特定の子の取り分は減らしておいてほかの子との公平をはかりたい、とおっしゃる方も多いです。
これが子に遺産分割を委ねてしまうとどうなるかわかりません。重ねてにはなりますがハンコを押してもらえなければ分割協議は成立しません。
こういった事情がある場合で取り分をあらかじめ変えておきたい、生前のことを考慮して相続では公平にしない、というのも財産を遺す立場で考えたのであればそれを反映するために遺言があったほうがよさそうです。
もちろん遺言がなくてもそのように生前の意思が分かっていてその通りに分割協議をされるケースもあります。
生前に渡されていないほうの子のことを考えてというのがお伺いしていると多い印象です。
遺言を作るというのはある意味で柔軟な対応ができなくなる可能性もあります。遺産分割協議だと相談して決めれますが、遺言だとそれがないわけです。
それが良い方向に働くか悪い方向に働くかはそれぞれのご家族の関係性からの影響を受けますのでなんとも言えない部分が大きいです。
ただ心配事を減らそうと思うのであれば遺言があったほうがその不安は軽減されるでしょう。
相続税がかかりそうだ、という場合には税務的なチェックも必ず遺言作成時には入れておくのが望ましいです。
相続税の計算は相続開始時点の状況により大きく変わることがあり、また遺言を作ってから相続が発生するとあとでその内容を変えることがむずかしいケースもありますので。
(相続人全員の合意があれば遺言の内容と異なる遺産の分割をすることは可能ですが協議になりますので不確定な要素が大きくなります)
まとめ
遺言がなくてもスムーズに遺産分割協議が整うケースはたくさんあります。不安だったりご自身の意思を遺産分割に反映させたい場合には検討してみましょう。
遺言は必ずないとダメというものではないですが、不安な気持ちを軽減させる効果はあります。
心配事があれば一度専門家に相談することをおすすめします。