相談会に従事して一般納税者の方のお話を聞く機会があると「近所や知り合いには税務署は来なかったと聞いている」とおっしゃるかたがいらっしゃいます。
だからといってキチンとしなくていいわけではないのですが、「税務署が来なかった」の本当のところはどうなんでしょうか。
相続税申告の割合は?
相続税の申告書を提出している割合としては亡くなった方が100人いらっしゃると9人ほどといわれています。
これは日本全国の平均として、ということで東京など都心で土地の価格が高い場合にはもっと多いでしょうし、地方都市であればこれよりも低い可能性が高いです。
あくまで均して8~9%ということです。
反対に100人のうち90人近くは相続税の申告書を提出していないということを意味します。
ではなぜ相続税の申告書を提出せずに済むかというと、亡くなった方の財産が相続税の基礎控除額以下である場合には申告が必要ないからです。
相続税の基礎控除の金額は3,000万円プラス600万円×法定相続人の数で計算できます。
法定相続人1人なら3,600万円、2人なら4,200万円といった金額になります。
この金額を下回っている財産ですとそもそも相続税申告が必要ないので、税務署はきません。
贈与のご相談があると贈与の税務調査があるか聞かれますが贈与単独ではなく相続税の税務調査の時に合わせ技を狙って贈与の有無などを詳細にチェックされます。
贈与単独だと税務署が来ないことが多いだけでそれがきちんとやらなくていい理由にはなりません。キチンと手順を踏んで贈与をすることがやはり大切です。
よそのお家の財産の多い少ないを推し量ることは野暮ではありますが、うちには税務署はこなかったよ、と言われたら申告するほどでもなかったのかな、という可能性はあるということです。
税務調査の選定対象は財産が多い申告から
税務調査がいつどのタイミングで誰にくるか、というのはコチラ側にいる限りはわかりません。
あくまで可能性の話ですので申告をしていても来ないこともあれば来ることもあります。
ただし傾向というものはあって、税務調査の選定対象となるのは財産が多い方からです。
これは個人的な印象ですが2億円を超えると税務調査が来る可能性が高くなり、1億円未満だと税務調査の可能性は低いというのが私が考える相続税の税務調査の傾向です。
必ずしもこれに当てはまるわけではなく、税務調査が来たときに指摘されがちな名義預金関係を当初申告で適切に計上している場合には税務調査が来ない可能性は高まります。
財産が多くても指摘事項がなければ税務調査にきても税務署から見ると空振りになります。
やはり適切な申告内容になっているかどうか、そのうえで追加で納税が見込める、そういうところに税務調査が入ることが多いです。
相続税の税務調査のタイミングとしては申告書を出してから1年経過後から2年以内が多く、申告書提出後3年来なければ来ないかなというのが私の持つ印象です。
相続税申告書を提出していても財産が少ないと相対的には税務調査の割合は少ないと考えられますので、うちには税務署は来なかった、は申告はしたけど財産が少なかった、もしくは適切に計上処理等をした、と言えるかもしれません。
税務署が来ても普通は周りの人には言わない
中小企業の社長でそれなりに社歴がある場合には法人の税務調査を複数回経験していることもあるでしょうし、慣れがあります。
相続税の申告が大きな申告としてははじめて、税理士と接するのもはじめて、みたいなことは割よくあって税務調査など経験したことがない人が圧倒的に多いです。
そんな一般の方にとって税務調査はポジティブなものかというと決してそういうことはなく、やはりネガティブに捉えられがちです。
追加で税金を納めることになったらどうしようとか、マルサの女のイメージから家探しでもされたらたまったもんじゃない、と思うこともあるでしょう。
そんな方にもし税務調査が入ったとして、追加で税金を納めることがあったらそれを周りの方に言うかどうか。
普通は言わないんじゃないかなと私は考えています。
恥ずかしいことではないですが税務調査が入ったという事実はあまり周りの人に言って回る種類の話ではないでしょう。
その点を考えるともし税務調査が来ていたとしても来ていないというかもしれません。
噂好きの人に口をすべらそうものなら根掘り葉掘り聞かれて、根も葉もないことが付け加えられて吹聴されることもありうるのです。
法人の税務調査だと数年に一度は税務調査されることもあり、社長同士のネットワークがあっていろんなことが共有される場があったりします。
相続税の税務調査はこの手の中小企業の社長の税務調査の経験をシェアする必要はないでしょうし、黙して語らずのことが多いのではないかなと私は推測しています。
まとめ
税務署が来ないからきちんとしなくていいというのは理由になりません。
最近は税務調査は無申告のケースについて厳しく漏れなくチェックする方向で進んでいるようです。
知り合いや友人のうちには税務署は来なかったは自分のところに来ないことの保証にはなりませんので、きちんとやっておくにこしたことはありません。