夏と冬はコミケ(コミックマーケット)の季節ということで、規模は縮小されましたがコミケそのものがあったり、Boothや同人作品を取り扱うサイトや販売店ではキャンペーンが張られます。
同人作家のかたがBoothやコミケで作品を販売したときの取引の流れから帳簿付けを整理してみましょう。
(今年初めて同人作品を制作、青色申告することを前提としています)
制作から発注まで
作品やグッズの制作をしていく間は経費がかかります。
例えばクリップスタジオ(クリスタ)などのソフトウェアであればその代金が支払手数料として計上されます。
(支払手数料)/(事業主借(※)) 5,000円 クリップスタジオペイント(年間)
月額支払いの場合も金額が変わるだけで基本的に同じ内容です。
※事業主借は事業用の現預金ではなくプライベートのお財布から支払ったときに使う勘定科目です。
もし事業用の現預金で支払っている場合は現金または預金になりますが、事業主勘定は便利な項目なので覚えて使えるようになりましょう。
支払手数料という項目でなくてもよいです。例えばソフトウェア費みたいな形で帳簿付けするのもOKです
ただし、決算書上はソフトウェア費という項目がデフォルトでは設定されていないので自分で項目を作る必要があります。
作品を作る際にはソフトウェアなどのツールだけではなく、iPadやパソコン、ペンタブレット(ペンタブ)なども必要です。
購入したときの帳簿付けは3パターンで、10万円以下の場合と、それ以上の場合でざっくりと覚えておきます。
10万円以下の物品については消耗品として計上してOKです。ペンタブを55,000円で購入した場合には
(消耗品費)/(事業主借)55,000円 ペンタブレット ワコム
といった感じです。
10万円を超えるものを購入した場合には以下のようになります。12万円のiPadプロだと
(工具器具備品)/(事業主借)120,000円 iPad 作画用
という感じで資産として計上します。経費になるのは年末決算の時に減価償却という手続きを経て計上します。そういうもんなんだなというだけで今の時点はOKです。
作業スペースについては場所代(家賃)、電気代ぐらいは経費になるでしょう。あとは資料として購入したものについても程度はありますが経費に該当するものもあります。
作品を作り上げることができたら、入稿して印刷に進みます。
いったんは印刷の経費は以下のように計上しておきましょう。
(仕入高)/(事業主借)200,000円 印刷代 プリントパック 400冊@500円
といった形で計上します。印刷費として計上してもよいですが仕入れにしておきます。
冊数と単価を書いておくと後で便利なので書いておくことをお勧めです。
販売、納品
いよいよ販売です。コミックマーケットで現金で手売りしたとしますと以下のようになります。
上記の印刷時に一冊500円だった本を仮に1,000円で売ったとします。一日100冊売れました。
8/16 (現金)/(売上)100,000円 夏コミ 100冊@1,000円
8/17 (現金)/(売上)100,000円 夏コミ 100冊@1,000円
8/18 (現金)/(売上)100,000円 夏コミ 100冊@1,000円
出店手数料がかかる場合には以下のように手数料で計上しておきます。
7/31 (支払手数料)/(事業主借)15,000円 夏コミケ 出店手数料
交通費や宿泊費もかかりますよね
8/15 (旅費交通費)/(事業主借)55,000円 宿泊・新幹線代
あとコミケで現金で売り上げたあとのその手元に残った現金は不用心ですし、自分のプライベートの口座に入れたとします。その際は以下のようになります。(事業用口座がない場合)
8/20 (事業主貸)/(現金)300,000円 夏コミケ 売上預入
印刷した400冊のうち300冊売れましたので在庫が100冊です。
コミケが終わったので50冊をBoothで販売したとしましょう。全部売れたと仮定します
8/31 (未収金)/(売上)50,000円 Booth売上 50冊
入金時に手数料を差し引かれたとすると以下のようになります。
9/30 (支払手数料)/(事業主借)2,500円 Booth 手数料
9/30 (事業主貸)/(未収金) 50,000円 Booth 売上入金
発送は自分でやったとしますとこれも経費が掛かります。
9/1 (荷造運賃)/(事業主借)9,250円 クリックポスト 50冊分
包装資材の分もかかります。
9/1 (消耗品費)/(事業主借)3,300円 Booth発送用包装資材 シモジマ
といった感じです。
今年はこれ限りだとして年末になったとしましょう。
年末時点での整理
年末の時点でやるべきことは決算整理といって決算にあたっての特別な整理をしておく必要があります。
今回のケースで言うと在庫の計上と減価償却です。
在庫は何冊だったでしょうか。コミケで300冊、Boothで50冊売れたんでしたよね。印刷は400冊かけていますから50冊が手元にあるはずです。
これは売れていないわけですから経費にすると売上と紐づけになりません。
印刷費を支払ったときに仕入れの状態で計上しているのでここから在庫に振り返る処理をしておく必要があります。
12/31(商品)/(期末商品棚卸高)25,000円 50冊@500円 棚卸し在庫
としておきます。
これで実際に売れた冊数に対しての仕入高が計上でき、残った冊数は来期に繰り越し、という処理になっています。
今回は冊数が簡略でしたが複数の作品がある場合には単価は摘要欄(備考のようなもの)に書いておくと後で見返した時に計上しやすいです。
今回で言うと冊数をカウントすれば単価は既に帳簿付けされている(支払ったとき)ので、いちいち原始資料を確認しなくても済みます。
つづいて減価償却の手続きをして終わりです。
作画用のiPadを12万円で購入したんでしたね。青色申告の承認を受けているので30万までの資産であれば一括で減価償却できます。
12/31 (減価償却費)/(工具器具備品)120,000円 減価償却費計上
とします。
会計ソフトを使っている場合には固定資産台帳に登録をして減価償却の計算をする流れです。
これで決算整理ができました。収支を見てみましょう。
売上 350,000円(コミケ300,000円 Booth50,000円)
原価 175,000円(200,000円の仕入れ 25,000円の在庫)
荷造運賃 9,250円
旅費交通費 55,000円
消耗品費 58,300円
減価償却費 120,000円
支払手数料 22,500円
この差し引きで見ると今回は90,050円のマイナスになってしまいました。
ただ減価償却費に計上したiPadは毎年計上するものはなさそうですのでその部分を考慮するとプラスになります。
まとめ
せっかくつけた帳簿ですから税金計算のためだけではなく、もっと作品を出したりほかの媒体での販売も考えていくなど改善点を考えていく材料にしていきましょう。
また帳簿付けなど数字や計算、資料整理などがとにかく苦手、という場合にはしっかり作品を作る環境づくりの一つとして税理士に依頼することも利益が出てきたら考えたいところです。
実際、当事務所でも全部マルっとお引き受けして作品作りのペースがしっかりと確保できて喜んでいただいている漫画家、同人作家の方がいらっしゃいます。
どこに優先順位を置くかは少し意識していただくとまた違った視点で事業の展望や方向性を見ることができます。