こんにちは、京都の税理士ジンノです。
相続税の計算において最も慎重に対応したいことのひとつに名義財産の取り扱いがあります。
その財産の名義だけは相続人に移っているけれど実際の財産の所有者は亡くなったひと、と税務調査で認定されてしまうと相続税計算や遺産の分割にも大きな影響を及ぼしてしまいます。
相続人の財産が名義財産かそうでないかの確認方法をみていきます。
おカネの出どころはどこか
まずもって相続人名義の財産のおカネの出どころはどこか、というのは非常に大事なポイントです。
財産形成要因といったりしますが、どのようにその財産が形成されたのかは亡くなった方もそうですが相続人のかたの財産においても、その金額が多額な場合には要注意です。
例えば財産形成要因としては
・働いて得たもの
・投資で得たもの
・相続や贈与で得たもの
の3つにおおまかに区分することができます。
働いて得たもの
働いて得た収入の中から貯蓄をしていてそれが積み重なってできた5,000万円であれば、何年間にわたってどれくらいの収入を毎年積み上げられたのか何となく想像することができますよね。
年間100万円なら50年かかりますし、25年間お仕事をしていたのなら年間で言うと200万円になります。仰っている説明と計算にずれがないかちょっと確認してみましょう。
投資で得たもの
投資で上手に運用して増やした、という事例も多く見聞きします。特にバブル期を経験していてうまく切り抜けられた方というのは一定数いらっしゃるようです。
わたし自身はバブル経済を実感として感じたことがないので想像が難しいのですが、たしかに投資をして運用するにはいい時代だったようです。
投資活動についてはもちろん何ら問題ありませんが、その原資がどこからきているのかは注意が必要です。
配偶者の名前だけ借りて上場株で運用しているといったケースは割とよく目にしますし、今ほど個人情報などの確認が厳しくない時代にはよくあったことのようです。
もちろん自分のおカネで運用しているのであれば問題ありませんが、自分以外の誰かのおカネを運用しているとするなら話が変わってきます。
以前の税務調査で指摘されたのが、生命保険の保険料の原資は誰のおカネかということです。相続人が契約者で被保険者もご自身になっている生命保険に加入している状態でした。
この生命保険料が年間で300万円、契約時には大学卒業後の24歳という状況で果たして自分で保険料を賄えたのか、という点について追及されたことがあります。
一般的に考えて大卒初任給に近い金額での生命保険料の金額でしたので、確認を進めたところ父母から贈与された金銭で保険料の支払いがされており贈与税の申告は無申告の状態でした。
相続・贈与で得たもの
相続や贈与で受け取ったものが財産を形成していることもあります。
誰からどれくらいの財産を引き継いだり、贈与されたかの確認はざっくりとした金額でも良いので確認しておくことが重要です。
申告書まで見せてもらう必要はないとわたしは考えていますが、見ますか?と聞かれたら拝見することはあります。
古い相続の場合だと資料が残っていないこともままりますし、ご本人がそうおっしゃるのであれば確かにそうなんだろうと記録しておくにとどめています。資料がない以上はご本人がおっしゃることが優先するという考えです。
総合的に考えて、またヒアリングをしたうえで相続人名義の財産がどのような形成のされ方をしたのか、またお話の内容に不合理な点がないかというのは注意しておきましょう。
贈与か贈与でないか
相続の場面ではよく「贈与か贈与でないか」という点が問題に上がってくることがあります。
よくある勘違いとして、贈与税の申告をしているから贈与が成立していると主張する方がいますが、必ずしもそうではありません。
贈与契約というのは財産を受け取る人と渡す人が双方で合意していれば書面ではなくても口頭でも成立します。
また申告をしていることが贈与契約が成立しているかどうかには影響を及ぼしません。反対のことも同じく言えて、贈与税の申告をしていないからといって贈与が成立していないとは言えない、ということです。
贈与税の申告の有無と贈与契約の成立不成立は別の問題として捉えると、もっとシンプルに考えられます。
贈与契約が成立していることについては証拠を積み重ねておくことが非常に大事です。
・現預金の場合には通帳や印鑑を受贈者(財産を受け取る人)が管理する
・不動産の場合には登記手続きを適切に行う
・受贈された財産そのものの処分等は受贈者側で行う
・贈与契約書を作成し、確定日付を取る(公証人役場または法務局)
・贈与税申告の必要があれば適切に申告をする
このような客観的に見て贈与が成立しているであろう事実の積み重ねがあったほうがより贈与が成立しているという説明が強固になっていきます。
申告の有無だけで贈与の成立不成立を判断しないようにしましょう。
どこまで確認できるかは難しい面がある
そうは言ってもどこまで相続人の方の財産をこちらで聞きだしたり把握することができるのかは非常に線引きも難しい部分があります。
最終的には税理士には相続人の方の財産を細かく調べる権限はないといえばないですし、物凄くプライベートな部分に切り込んでしまう可能性ももちろんあります。
税務調査があった際の対応や名義財産の取り扱いなどを丁寧に事情を説明したうえで、心配なことがあればもちろん確認し、これ以上は大丈夫ですという相続人の方の判断があればそこまでにしてあとは信頼するしかありません。
これは他のお客様との関係でもそうですが最終的に判断をするのはそのお客様です。
良い判断ができるようにサポートし、ご説明を重ねることが大切になってきます。
通常の法人や個人の顧問業務であれば時間を重ねることで信頼関係を構築する時間を持てますが、相続業務の場合は対策から関わっていない限り短いスパンで信頼関係をどこまで構築できるかは難しい面があります。
その点を理解したうえでどこまで確認できるか、ご説明を重ねていきご判断いただくしかないのかなとも思います。
まとめ
相続税の申告業務において名義財産の有無や確認というのは本当にデリケートでもありますし難しさを感じます。
ただそうは言っても計上しなければいけない場合もありますし、短い時間でいかにご説明とヒアリングを通して信頼関係を醸成するかもポイントです。