京都の相続に強い税理士ジンノです。
[chat face=”hair_biyou_kirei_ojiisan.png” name=”” align=”left” border=”yellow” bg=”none”] 遺言は自筆で書いたので問題ないよ [/chat]本当に問題ないでしょうか?
相続税の申告書を100件以上作成してきて感じていること、それは「自筆遺言は圧倒的に揉めやすい」ということです。
自筆遺言の改正点、自筆遺言が揉めやすい理由、今後の考えられる動きを解説します。
自筆遺言のメリット・デメリットとは?
遺言には3種類の様式があります。
自筆証書遺言(以下、自筆遺言と表現します)、公正証書遺言、秘密証書遺言の3つです。
自筆遺言は自宅で自分で作成することができる一方で、公正証書遺言については公証人と証人の立会の元、作成することになります。
このうち秘密証書遺言については現状ほとんど利用されていませんので、今回の記事では内容を割愛します。
自筆遺言と公正証書遺言にはそれぞれメリット・デメリットがあります。
自筆遺言のメリットでよく言われるのが、いつでも作成できる、費用が安い、ことが挙げられます。
デメリットについては、改ざん・紛失の可能性がある、書式に不備があり無効になる可能性がある、という点が挙げられます。
これはそのまま公正証書遺言のメリット・デメリットになり得ます。要は裏表の関係になっているようなイメージです。
メリット | デメリット | |
自筆遺言 | いつでも作成できる
費用が少ない |
書式に不備がある可能性がある
改ざん・紛失の可能性がある |
公正証書遺言 | 書式に不備がない
改ざん・紛失の可能性がない |
作成までに時間がかかる
費用がかかる |
自筆遺言が揉めやすい理由
自筆遺言を作成しようとする場合のルールは民法に規定されています。
民法においてルールが厳しく設定されているがゆえに、実際に記載した自筆遺言の内容に不備があって、遺言自体が無効になる可能性があります。
せっかく遺した遺言が無効になることほど残念なことはありません。遺言が無効になると、相続人間で話し合いの余地が生まれますので、そうなると利害が対立し揉め事に発展するケースがあります。
また、書式に不備がなくても相続人間で揉め事の火種があればそれが一気に燃え上がる可能性を自筆遺言ははらんでいます。
例えば、遺言を作成して亡くなった方が認知症を患っていた場合、これは本人の意思で作成されたものじゃない、という主張が相続人からなされることがあります。
そのほかにも、遺言の内容に納得できない相続人から、以前に聞いていた財産の分け方と違う、これは〇〇(相続人など)が亡くなった方に吹き込んだ内容だといった主張や、手を添えて書かせたものだ、といった強い主張がなされることがあります。
このような主張が出てくると相続人間の信頼関係が崩壊しますので、最終的に話し合いでの解決は難しく調停や裁判による判断をしてもらう可能性がかなり高まります。
では公正証書遺言はどうかというと、公証人とよばれる職業の方(元裁判官などのプロの法律家です)と証人2名が立ち会うことになっていますので、遺言作成時にご本人の様子を確認でき(意思があいまいでないかどうかという意味です)、そもそも本人の意思ではない遺言を作成できない、ということが担保されています。
自筆遺言の場合はご自分一人で作成できる手軽さがありますが、専門家のアドバイスをもらったりサポートをしてもらう可能性は低くなります。
そうなると、揉めないように遺言を作るという目的が自筆遺言であるがゆえに果たされない可能性があるのです。
公正証書遺言であれば絶対揉めないかというとそうではないのですが、同じ内容でも公正証書遺言なら揉めてなかっただろうな、ということが現実としてあります。
揉めないように遺言を作成するのであれば第三者の目や専門家のサポートが受けやすい公正証書遺言をおすすめしています。
自筆遺言に関するルールが変更されます
これまで民法に規定されていた自筆遺言のルールはかなり厳格なものでした。
厳格であるがゆえに不備が発生する可能性も高かったのですが、この自筆遺言に関するルールが変更されます。
自筆遺言の書式に関するルール(2019年1月13日以降)
以前までは自筆遺言については、財産の内容などすべてについて自署し押印する必要がありました。
日付についても吉日などと省略せずに記載する必要があります。
財産の種類が多岐にわたる場合、自署で財産の内容を書き起こすというのはみなさんが考えておられる以上に負担です。
書き間違いについても修正の仕方などが細かく指定されており、それに則っていないと書式に不備があるとみなされます。
財産を遺す方の意思をあいまいなものにしないという民法の配慮もあったとは思うのですが、厳格すぎるという意見が多かったのも事実です。
これに対応する形で2019年1月13日以降、相続財産の全部または一部について財産目録をパソコンなど自署に拠らない形で作成し、財産目録に自署押印することでルールを満たしていることになります。
財産目録については、不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)や預金通帳の写しを目録として添付することができるようになっていますので、書式についてのルールは緩和されたと言えます。
自筆遺言の保管に関するルール(2020年7月10日以降)
公正証書遺言であれば公証人役場というところで遺言を作成した人が120歳になるまで原本を保管します。作成時には遺言の写しをもらうことができるのですが、万が一紛失しても公証人役場に問い合わせれば写しを取得することができます。
自筆遺言は作成後、どのように保管するかが決まっていません。遺言を作成した人に任せられています。
親族が自筆遺言の存在を知らなければそのまま遺言はないものとして扱われる可能性もありますし、自筆遺言を発見したひとにが遺言の中身を見て自分に都合のいいように改ざんしたり、破棄する可能性も考えられます。
このようなことを防止する観点から、2020年7月10日以降、法務局という役所にて自筆遺言を保管する制度が始まります。
ただし保管にあたり書式に不備がないかは確認されますが、遺言の内容までは確認されません。
親族での揉め事を回避するための遺言には、難しい用語になりますが
- 遺留分の侵害の有無(本来相続人が相続できる財産を下回っていないか)
- 遺言執行者が指定されているか(遺言の内容をもとに実際に遺産を分ける人を選んでいるか)
- 予備的遺言の有無(遺産をもらう人がもし先に亡くなっていたら、遺産を誰に渡すか)
- 遺言に記載漏れの財産がないか
などの検討が必要です。
自筆遺言を法務局で預かる際のチェックには様式のチェックはあっても、内容のチェックはないので、その点は十分に理解しておく必要があります。
まとめ
[box03 title=”本記事のまとめ”]- 自筆遺言は第三者の目や専門家のサポートが入りづらい
- 自筆遺言であるがゆえに揉めるケースがある
- 公正証書遺言は時間と費用は掛かるが、揉め事を防止する効果は圧倒的に高い
気軽さがある自筆遺言ですが、気軽に書かないほうがいいのが遺言でもあります。
揉め事防止の目的があるならば、公正証書遺言で作成することをおすすめしています。
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